
生成AIを毎日使うようになると、別の面倒が生まれます。会話を始めるたびに「うちの会社はこういう業種で」「読者はこういう人で」「この言い回しは使わないで」と、同じ説明を繰り返すことになるからです。この手間をなくすのが、多くのAIサービスに用意されている「プロジェクト」や「スキル」といった機能です。実際に自社の業務向けに作ってみて分かったことを含めて紹介します。
毎回同じ説明をしている、という問題
チャット形式のAIは、会話が変わると前回の内容を忘れます。前提を共有した状態から始められないため、指示文がどんどん長くなっていきます。
長い指示文をメモ帳に保存して毎回貼り付ける、という運用をしている方も多いと思います。それでも、貼り忘れたり、更新した版と古い版が混在したりします。担当者が複数いれば、人によって前提が違うという状態も起きます。
ここを仕組みで解決するのが、次に紹介する2つの機能です。
プロジェクト:前提をまとめて置いておく
「プロジェクト」は、関連する会話をひとつのまとまりとして扱う機能です。Claude や ChatGPT に用意されています。
できることは主に2つあります。ひとつは、そのプロジェクト共通の指示を登録しておくこと。もうひとつは、参照させたい資料をあらかじめ置いておくことです。
たとえばホームページの原稿づくり用のプロジェクトを作り、会社案内のPDF、既存ページの文章、社内の表記ルールを置いておきます。以降、そのプロジェクト内で会話を始めれば、AIは毎回それらを踏まえた状態から応答します。「弊社の主力商品は」から説明し直す必要がなくなります。
資料を差し替えれば、その後の会話すべてに反映されます。複数人で使う場合、前提のばらつきがなくなる点も効果として大きいはずです。
スキル:作業の手順そのものを覚えさせる
もう一段進んだのが「スキル」です。Claude では Agent Skills という名前で提供されています。プロジェクトが「前提の共有」だとすれば、スキルは「作業手順書の登録」にあたります。
中身は、作業のやり方を書いたテキストファイルです。どういう場面で使う手順なのか、どんな順序で進めるのか、守るべきルールは何か、出力はどの形式にするか。これらを書いておくと、該当する依頼が来たときにAIがその手順を読み込んで従います。
プロジェクトとの違いは、指示を出すたびに読み込ませる必要がない点です。「ブログ記事を書いて」と頼めば、記事執筆用の手順が自動的に適用されます。使う場面ごとに手順を分けて持てるので、指示文がひとつに肥大化しません。
実際に作ってみて分かったこと
筆者は自社ブログの記事執筆用にスキルを作りました。書いた内容は、想定読者の像、文体のルール、営業的な表現を書かないという禁止事項、そしてWordPressにそのまま貼れるHTML形式で出力すること、といったものです。
効果が出たのは、指示の短さです。以前は前提の説明に十数行使っていたものが、「この話題で記事を1本」の一言で済むようになりました。文体や禁止表現のブレも、目に見えて減っています。
画像生成用のスキルも作りました。用途ごとに必要な指定を手順化しておくと、毎回ゼロから条件を書き出す必要がなくなります。
うまくいかなかった点
一方で、思ったとおりにいかない部分もありました。
まず、スキルが呼び出されないことがあります。呼び出しは「どういうときに使う手順か」という説明文をもとに判断されるため、その説明が曖昧だと素通りされます。ここは何度か書き直して調整が必要でした。
次に、ルールを詰め込みすぎると質が落ちます。禁止事項ばかり並べた結果、当たり障りのない文章しか出てこなくなったことがありました。書くべきことと書かないことのバランスは、実際に使いながら削っていくしかありません。
そして、記事の中身そのものは手順化できません。何を取り上げるか、どの実例を出すかという部分は、結局こちらが持ち込む必要があります。スキルで安定するのは形式と品質の下限であって、内容の面白さではありません。
何から始めるか
いきなりスキルを作る必要はありません。段階を踏むほうが失敗しません。
- うまくいった指示文を保存する:まずはテキストファイルに貯めるだけで構いません。ここで「繰り返している作業は何か」が見えてきます。
- プロジェクトを作って前提を置く:会社案内や表記ルールなど、毎回説明している情報を登録します。効果を一番感じやすいのはこの段階です。
- 頻度の高い作業をスキルにする:月に何度も発生し、出来上がりの形が決まっている作業から手をつけます。
作ったあとは、実際の出力を見ながら手順を直していく作業が続きます。一度作って終わりにはなりません。
仕組みにすると、属人化から抜けられる
これらの機能の本当の価値は、時間短縮よりも、AIの使い方を個人の中に閉じ込めずに済むことにあります。指示文が担当者のメモ帳の中にある状態では、その人が異動すれば同じ品質は出せません。
普段AIに繰り返し説明している内容を、まずは書き出してみてください。それがそのまま、プロジェクトやスキルに置く最初の中身になります。