
ブラウザからログインして使う業務システムでは、「誰が何を見られて、何ができるか」を決める必要があります。これを権限設計と呼びます。
地味な部分ですが、後から変えようとすると手間がかかりやすく、検討の初期に決めておきたい項目のひとつです。この記事では、権限設計で考えることと、よくあるつまずきを整理します。
権限とは何を指すのか
権限は、大きく二つに分けて考えると整理しやすくなります。
ひとつは、見られる範囲です。すべての案件を見られるのか、自分が担当している案件だけなのか、といった区分です。
もうひとつは、できる操作です。登録はできるが削除はできない、金額の欄は見られるが変更はできない、といった区分になります。
この二つを組み合わせて、役割ごとに設定していきます。たとえば「一般担当者は自分の案件を登録・編集できるが削除はできない」「管理者は全件を見られて削除もできる」という形です。
後から変えるのが難しい理由
権限は、システムの土台に近い部分に組み込まれます。
「この画面を見せるかどうか」だけの話であれば、後からでも比較的簡単に変えられます。しかし「担当者ごとに見えるデータを分ける」となると、どの記録が誰のものかを記録しておく必要があり、データの持ち方そのものに関わってきます。
最初は全員が全部を見られる作りにしておき、後から分けようとすると、既に貯まっている記録に担当者の情報がなく、振り分けができないという事態が起こります。この場合、過去のデータを手作業で割り当てるか、その時点より前は全員が見られるままにするか、といった選択を迫られます。
「今は全員が見えても困らない」という状況でも、将来分ける可能性があるなら、その前提だけは伝えておくと後が楽になります。
細かく分けすぎたときに起きること
反対に、権限を細かく設定しすぎると、別の問題が出てきます。
担当者が休むと業務が止まる 自分の案件しか見られない設定にしていると、急な休みのときに誰も内容を確認できません。代理で対応できる仕組みを併せて考えておく必要があります。
設定の管理が追いつかない 人ごとに細かく設定していると、異動のたびに設定変更が必要になります。担当者が増えるほど、設定漏れが起きやすくなります。
「見えないから聞く」が増える 権限で情報を絞った結果、電話やチャットでの確認が増え、かえって手間が増えることがあります。
権限は、細かければ良いというものではありません。業務が回る範囲でできるだけ単純にしておくほうが、運用は安定します。
役割を先に洗い出す
設計の進め方としては、人ではなく役割を単位に考えると整理しやすくなります。
まず、システムを使う人を役割ごとにまとめます。たとえば「営業担当」「事務担当」「管理者」「閲覧のみの経営層」といった具合です。
そのうえで、役割ごとに次の点を書き出します。
- 普段どの画面を使うか
- 見る必要があるのは、全体か、自分の担当分か
- 登録・変更・削除のうち、どこまで必要か
- 金額や個人に関わる情報を見る必要があるか
役割の数は、多くても5つ程度に収まることがほとんどです。それ以上に増えるようなら、業務の分け方そのものを見直したほうがよい場合もあります。
見落とされやすい点
設計時に忘れられがちな部分をいくつか挙げます。
削除の扱い 削除できる人を絞るのは一般的ですが、そもそも本当に消すのか、画面に表示しないだけにするのかも決めておきたい点です。後者にしておくと、誤った操作からの復旧が容易になります。
退職者のアカウント 使わなくなったアカウントをどう扱うかです。削除するとその人が登録した記録の扱いが問題になることがあるため、利用停止の状態にできるかを確認しておくと安心です。
管理者が一人しかいない状態 すべての設定を変更できる人が一人だけだと、その人が不在のときに何も変更できなくなります。二人以上にしておくのが無難です。
外部から使うかどうか 社外や自宅から接続する可能性があるなら、その前提も併せて伝えておく必要があります。社内からのみ使う想定と、外部からも使う想定では、必要な備えが変わります。
決めた内容は表にして残す
権限の設計は、口頭のやり取りだけで進めると認識がずれやすい部分です。役割を縦に、画面や操作を横に並べた表を作り、それぞれの欄に「可」「不可」を書き込む形にしておくと、抜けを見つけやすくなります。
この表は、開発時の資料としてだけでなく、運用が始まってからも役立ちます。新しく人が入ったときに、どの役割を割り当てればよいかがひと目でわかりますし、設定が意図どおりになっているかを確かめる際の照合先にもなります。
年に一度は、この表と実際の設定が合っているかを見直しておくと、不要な権限が残ったままになる状態を防げます。担当が変わったのに設定はそのまま、という状況は気づきにくいものです。
まとめ
権限設計は、「誰が何を見られて、何ができるか」を役割ごとに決める作業です。後から変えにくい部分があるため、検討の早い段階で整理しておくと手戻りを防げます。
一方で、細かく分けすぎると運用が回らなくなります。まずは役割を洗い出し、業務が滞りなく進む範囲でできるだけ単純な形にまとめるところから始めてみてください。